EdTechソリューションの費用対効果を考える
社員教育の効率化や改善などに役立つEdTechソリューションの導入を実際に検討する際には、多くの場合まずそのサービスのメリットを社内へ示すことが求められます。
この際、導入にかかる費用に対してどの程度効果があるのかということを明らかにすることができれば、社内稟議もスムーズになります。
1.EdTechソリューション導入の企画書サンプル
外部のサービスやソリューションの導入を社内提案する際には、導入の許可を得るための企画書作成が有効です。
企画書を作成することは、サービス導入を推し進める担当者自身の頭の中を整理することにもつながるため、「このサービスは本当に必要か?」「他の手段はないか?」と冷静に考え直すきっかけにもなります。
この記事では実際に、何かしらのEdTechサービスを導入すると仮定し、その際に作成する企画書に沿って説明をしていきますが、まず企画書は全体像を把握しやすい内容にすることが大切です。
そのためには、少なくとも以下の5項目については簡潔にまとめて記載することをおすすめします。
1.現状分析・課題
2.導入目的
3.内容・費用
4.スケジュール
5.効果・目標
【例:EdTechソリューション導入を検討する社員数500名のIT企業】
若手社員の早期離職に悩む社員数500名のIT企業。
離職理由として最も多かったのは、「成長を実感できない」というものでした。
人事担当者としては、研修プログラム、OJT、自己啓発支援、ジョブローテーションなど、社員が成長するきっかけとなる場は提供してきました。
そこで、社員の成長を記録に残し、社員が自身の成長を実感できる仕組みづくりが必要だと考え、それが実現できるEdTechソリューションの導入を企画しました。
「EdTechサービス導入企画書(サンプル)」
1.現状分析・課題
3年連続で若手社員の離職が増加傾向にある。
入社3年以内の早期離職率は、2018年25%、2019年30%、2020年33%
離職理由の60%が「本人が成長を実感できていないこと」であった。
※退職時のヒアリング内容を元に集計
成長の場は提供しているため、成長を実感できる仕組みづくりが必要。2.導入目的
社員自ら成長を日々記録する仕組みを作り、成長を振り返ることができるようにする。
成長に関する記録を収集し毎月実施している1on1面談で使用する。3.内容・費用
【内容】
・本人が高めたい能力の向上に最適なアクションをシステム上で設定
・本人がアクションできたかできなかったかを毎日チェック(1分程度)
・各アクションの達成率や推移をダッシュボード上で管理者が把握、改善を促せる。
【費用】
360,000円/年4.スケジュール
2月~3月:導入準備、事前周知
4月:運用開始、各マネージャーへのシステム説明会の実施5.効果・目標
社員が記録に基づいて自らの成長を振り返ることで、「成長が実感できない」という
会社への不満が解消され、離職率が改善する。
目標値として、2021年は早期離職率23%(前年比10%改善)を設定し、
導入したシステムの効果検証を行う。
こういった形式でまとまっていれば誰が見てもわかりやすく主旨が伝わってきます。
ところが、判断者の視点で見ると、実は上の企画書はまだ十分に受け入れられやすい内容になっているとは言えません。
なぜなら、この企画書の1.現状分析・課題にある「成長を実感できる仕組みづくり」が離職率の改善につながるということはあくまで離職が決まった人が言っていることであり、本音ではないかもしれないし、現在も働いている他の社員は異なる考えを持っているかもしれないからです。このケースでは、現状分析の項目に「ある工夫」をすることで、より受け入れられやすい企画書へと改善することが可能です。
2.従業員エンゲージメントを中間指標として設定する
サービス導入の効果を測るために有効なのは、結論からお伝えすれば、既存社員へのアンケート調査とその分析です。
上記の事例で言えば、「成長を実感できていると感じるかどうか」といった課題についてアンケートを通じて数値化し、離職率や売上などの収益指標とのつながりに関して数字を使った分析を行います。
例えば、「調査の結果、社員の成長実感についての満足度が1点上がると離職率が10%下がることが分かりました」と言えれば、会社としては「じゃあこれくらいのコストをかけても社員の成長実感についての満足度を上げる価値があるね」と考えられるようになります。
そこで重要となるのが、以下の2点です。
・どのような調査項目にすればいいのか
・調査結果をどのように分析すればいいのか
まず、調査項目に関する考え方についてお伝えします。
調査項目を考える上での一番のポイントは、「成長実感」と「収益指標」の間に、従業員満足度やエンゲージメントと呼ばれる項目をワンクッション挟む形で置くようにするということです。
【図1】
分析結果の例:成長実感の評価を1点向上させるとエンゲージメントが2点上がる。
エンゲージメントが2点上がると離職率が10%下がる。
エンゲージメントとは、社員の会社に対する「愛着心」や「思い入れ」のことです。これを高めることでモチベーションの増加や離職率の低下などが期待できるため、近年非常に注目されている指標となります。
それでは、なぜ「社員が成長を実感できたか」というサービス導入の効果を検証するために、間にエンゲージメントというものを挟んで考える必要があるのでしょうか。
これは一言でお伝えすると、成長実感以外の改善項目候補と比較をするためです。
実際問題として、離職の理由として最も多いのが「成長が実感できなかった」という意見だったとしても、離職率などの収益指標を高めるために有効と考えられる方法は、それ以外にも考えられます。
なぜなら、一般的に退職者は退職理由を正直に伝えないと言われているからです。
実際に、転職コンサルタントを対象にした調査(※)によると、転職者の2人に1人は本当の退職理由を伝えないという結果が出ています。
※出典:総力特集!月刊「人事のミカタ」
成長を実感できる環境を整えるという方法以外にも、福利厚生の改善や評価制度の変更、企業理念のさらなる浸透など、離職率を改善する手段は様々なものが考えられます。
会社側の視点に立って考えた場合、企画書の通りにEdTechサービスを導入するということは、これら様々な選択肢の中から「社員が成長を実感できる環境を整える」という項目にお金や人の稼働といった資源を配分することに他なりません。
だからこそ、単に「成長が実感できないという会社への不満が解消されます」と言う以上に、「社員の成長実感という項目を改善すると他の項目に比べてこれだけの効果があります」と言えることも重要です。
そして、他の様々な項目と同じ基準で比べる際に一つの物差しとして有効なものの一つが、エンゲージメントなのです。
エンゲージメントは、人材の流動化が進む中で多くの企業が課題を感じている離職率と大いに関係があり、他にもモチベーションの向上による生産性の改善など様々な収益指標と深いつながりが証明されています。
加えて、エンゲージメントは近年特に多くの企業から注目されており、あらためてその重要性を説明しなくても比較的容易に社内での理解を得られるというのも間に挟む指標として好ましい理由の一つです。
そのため「どのような調査項目にすればいいのか」という点に関しては、エンゲージメントを主軸とした従業員調査という大枠の中で、福利厚生や評価制度などへの満足度に並べる形で「社員の成長実感」という項目を入れる設計をおすすめします。
3.調査項目の設計例と実査をする場合のポイント
以上の内容を踏まえた上で、ここでは実際に調査をする場合の簡単なサンプルと、その実施の際のポイントをお伝えしておきます。
例:従業員エンゲージメントアンケート
Q.現在の職場で働くことを、どの程度親しい友人や知人に勧めたいと思いますか?
(低)← 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 →(高)Q.現在の職場で働くことで成長を実感できていると思いますか?
(低)← 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 →(高)Q.現在の職場で福利厚生はどの程度充実していると思いますか?
(低)← 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 →(高)
「エンゲージメントを測る質問」にはいくつか種類がありますが、単に「満足度」を聞くより「他の人にどれくらいお勧めしたいか」という「推奨度」を聞いた方が収益指標との関係は強いと様々な研究で言われているため、上のサンプルではそのようにしています。
この推奨度(0~10点)が、ここで言う「エンゲージメント」の点数となります。
またその下に続く質問が、OJTとその他の改善項目候補に関する点数です。
なお、0~10までの11段階評価とすることは、その後の分析をより高い精度で行えるようにするためであり、近年では「非常に不満」~「非常に満足」の5段階評価や7段階評価よりも主流になってきています。
※すでに同様の調査を自社で行っている場合には、自社の調査項目に追加や修正をする形での検討をしてみてください。
次に、以上の調査を実施する際の一番のポイントをお伝えします。
それは、出来る限り回答者が誰か分かる形でアンケートを実施するということです。
エンゲージメントをはじめとする改善項目候補の数値が取れれば、分析のため最後に必要となるのが離職率などの収益指標です。
しかしアンケートを無記名で行ってしまうと、肝心の収益指標との紐づけが難しくなってしまいます。
「記名式にした場合、素直に答えてくれなくなるのでは…」という懸念は、アンケートを実施する上でよく出ます。しかし「収益指標と紐づけて分析する」ということを目指す場合には、勇気を持って会社と社員の関係性を信用することが求められます。
※会社によっては「とにかくエンゲージメントを上げたい」と最初から決めている場合もありますので、その場合には匿名式のアンケートでも大丈夫です。
なお、実際にはただ「信用する」だけでなく、相手から素直に回答してもらえるような工夫も大切です。
一番のお勧めは、アンケートの最初にきちんと「データの取り扱いに関する約束事」を明記しておくことです。
例えば、「個人が特定される形で回答結果を上司へ伝えることはありません。」「回答による人事評価への影響は一切ありません。」といった形で回答者を安心させてあげることが重要です。
もし、低い点数を付けた人が翌日上司から呼び出されたなんてことがあれば、以後の調査では二度と素直に回答してもらえないと思って間違いありません。
なお、その他の手段としては第三者機関に委託するという方法もあります。ちなみにEdu研では上記のような調査・分析を依頼されて行うこともありますので、興味のある方は問い合わせフォームよりご連絡ください。
【図2】
分析結果の例:エンゲージメントが2点上がると離職率が10%下がる。
成長実感を1点向上させるとエンゲージメントが2点上がる。
福利厚生を1点向上させるとエンゲージメント1.5点上がる。
︙
結論:成長実感を改善することは他の項目と比べてもこれだけ効果があるので
成長実感が見込めるEdTechサービスは導入した方が良いと言える。
もちろん、調査の結果、成長実感の改善が他の項目と比べて効果が低いと予想されてしまう可能性もあります。
その場合には、成長実感の改善が他の項目と比べてどれだけコストがかからないかといった別の視点も別途検討する必要が出てきます。
このようなアンケートを実施した上で企画書を作成するとより受け入れられやすい企画書にすることができます。上記の企画書サンプルにおける1.現状分析・課題が以下のように変わります。
(■事前アンケートなし)
1.現状分析・課題
3年連続で若手社員の離職が増加傾向にある。
入社3年以内の早期離職率は、2018年25%、2019年30%、2020年33%
離職理由の60%が「本人が成長を実感できていないこと」であった。
※退職時のヒアリング内容を元に集計
成長の場は提供しているため、成長を実感できる仕組みづくりが必要。
(■事前アンケートあり)
1.現状分析・課題
3年連続で若手社員の離職が増加傾向にある。
入社3年以内の早期離職率は、2018年25%、2019年30%、2020年33%
昨年行った従業員エンゲージメント調査の分析結果によると、
社員が成長を実感できるようになることが最も離職率の改善に効果があることが
明らかになった。
成長の場は提供しているため、成長を実感できる仕組みづくりが効果的。
このような論理的に考えて課題解決ができるような企画書を作成することができたら、それを元に社内で話し合いを行い、議論を深めていくという流れになります。
また、もし最終的に企画が通らなかったとしても、「こういった企画書が作れるのだから課題解決力が高い人材に間違いない」と高評価を受けることにもつながるため決して無駄にはならないため、積極的に企画書作成をしていくことをおすすめします。
次のステップでは、EdTechソリューション導入に失敗しないための3つのポイントをご紹介しています。
ーーーーーEdu研の取り組みーーーーー
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